あすみとモラハラ夫との13000日

モラハラ夫と暮らす悩みと苦しみを綴ります

私は道化師

「こんにちはーお久しぶりー」

校庭に止めた車から降りようとしていた時、向こうからゆっくり歩いてきた彼女は、夫の下で働いていた元部下の奥さん

長男と同じ年の女の子が「同じ高校だって」
と夫から聞いたのはもう、一年前の入学式の前だった。
そのときはクラスも別々で、お互いに顔を見ながらも遠くから会釈するだけで、話をすることはなかったが、高校2年で、同じクラスになった。

「同じ車ね」

斜め向かいに止めた彼女の車もスタイリッシュコンパクトカーの外車
私はコバルトブルーで彼女のはシルバー

クスッと2人で笑った

彼女のご主人も私の夫が海外単身赴任に決まった、確か半年後によその海外先に単身赴任したと聞いた

「ご主人様はまだ、単身赴任?」
「そうなのよ、前のところは4年、今度のところはもう、3年になるかなあ」
「子供さん達になかなか会えないからさびしいよね」
「うちは女の子2人だからそうでもないよ」





マイホームを建てた時に「部下を呼びたい」と3家族招待したなかに、彼女とご主人、子供さんもやってきた。

「素敵なおうちね~」

彼女は他の住宅メーカーでは実現できない高い天井にこだわりのライティング、あちらこちらに置いた青々とした背の高い観葉植物を見回しながら

「奥様の趣味ね これは」
と上手に褒めて、楽しく談笑したことを思い出していた。が、あれから何年過ぎただろう。


モノトーンのセットアップのスーツに肩までかかる髪は少し巻き髪にして、品良くカラーリングして、清楚な奥さんという印象だった。

久しぶりに会う元部下の奥さんという位置づけに、何か話題を見つけようとしたが、やはりそれぞれの夫の仕事の話しくらいしかなかった。


「ねえ、そう言えば・・・」

彼女は思い出したように切り出した

「小川さんのご主人、海外赴任から何で早く帰ってきちゃったの?」

(なんで・・・)

なんで?4年間支社長としての任命をどうして、1年ちょっとで帰ってきたのか・・・

もう、あれから何年も経っていたので、
当時に思いを馳せるまで微妙な時間を要したが、また、嫌な感覚も戻ってきた。

「なんかぁ、組織が変わったんだって」

「そお・・・お父さんに何で小川さん早く帰ってきたの?って聞いたら、食べ物の香辛料が合わなかったんだって聞いたよ」

「食べ物は美味しいって食べてたけどね」

「そっかあ」

彼女は知っていた。夫が何で早く帰ってきたのかを。
(小川さんの奥さんは本当のこと、知ってるのかしら)
その事をどうしてもきいて見たくて何年も経った今、探ってみようとでも思ったのかも知れない

何で早く帰ってきたか、或いは夫よりもこの私が一番よくわかっていた。


末っ子と幼稚園が一緒だったママ友のご主人さんも、夫と同時期に一緒に赴任していた。

子供達を一緒に遊ばせていた時、

「ねえねえ、うちの旦那、海外から帰ってくる度にお金がかかる お金がかかるって10万円ずつ持っていくんだけど、そんなに生活費がかかるところなの?」
「え?そうなの?うちはそんなことないけどね」

日本よりは物価がうんと安いはず。でも、夫は支社長という立場、土田さんところは一般会社員だから、サラリーの差は多少ならず、あるかもしれない。

ある日お夕飯のときに聞いてみた。
「土田さんのご主人さん、日本に帰ってくる度に10万円持っていくんだって、そんなに生活費がかかるのかって聞いといてって言われたんだけど」

そういうと、夫は大笑いした
「そりゃだいぶ遊んどるわ」

(はあ、そうなんだ)

「あなたは遊びに行かないの?」

「そんなんね、身を削って朝から晩まで、仕事して、マンションに疲れてかえるだけだよ」

馬鹿なことを聞くなよ、そんな態度で言い切った


海外赴任先からどういう面々が戻ってくるのか、気になって聞いてみた。
「鈴木さんも?山口さんも?戻ってくるの?」

「戻ってくるのは上の人だけだよ、会社っていうのはそういうところだよ」

(そうなんだ・・・)


でも戻ってきたのは夫と土田さんのご主人、他に2人の僅かな人達だけだった。

海外の支社長として4年間の任務を命じられて、大々的な壮行会も開いてもらったはずなのに、僅か1年と少しで帰ってきた事は、きっと格好のネタとなり、あることないこと、噂になったに違いない

もう、何年も前のことなのに、彼女からそんなことを聞かれて嫌な事を思い出した。

私自身が一番傷つき、惨めで情けない思いをしていたのに、傷つけらた夫のことを尻ぬぐいしなければならない屈辱

私は道化師みたいだ

何度傷つけられたら済むのだろう


2年前に彼女は私の勤める量販店にお買い物にやってきた。
ちょうど、催事で外に張ったテントの中、正社員の側で作業をしていたとき

「小川さん~」

と声をかけられた。

「こんにちは~聞いたよ、大栄転らしいじゃない」

8年間の海外赴任を終えた彼女のご主人は日本に戻ってきた。
国内で一番大きな支社の支社長になったらしいと夫に聞いていた。大卒以外では珍しい大栄転

「大変なだけよ~家族揃って暮らせるようになったからそれが、一番嬉しいのよ」
「おめでとう」

「小川さんお元気でね、ご主人様にもよろしくね」

「ありがとう、お元気でね」

そう言って、目の前に止めていた車に乗り込んだ

車がBMW X3のワゴンに変わっていた。

「じゃあね~」

ウィンドウを開けて朗らかに笑って帰って行った。

「どういう知り合いですか?」
正社員さんに聞かれて「夫の部下の奥さん」
などと、答えられる筈がなかった




彼女のご主人は高卒というハンディを武器に変えて、海外で家族のために努力したのだろう。

男性だから多少のお付き合いもあったとして、奥さんにバレたとしても彼女のご主人なら、「君が一番大切なんだ」と奥さんに謝り、尽くしただろう。

羨ましい・・・などとは思わない、次元が違いすぎて、身が置かれているこの現実に、悟りを開いたような境地でいる。