アパートに引っ越してきて、半年になろうとしている。
お休みの朝は自然に目が覚めるまでゆっくり寝ていられるし、朝早くから起きてサンドイッチを作ることもない。
お気に入りのカップに薫り高い珈琲を入れて、好きなテレビをソファに寝転んで見る。
窓からは遠くに海も見えて、半年たった今は木々の緑も生い茂り、鳥の囀ずりも心地いい。
あああ~~~アパートに越してきてほんとに良かった。
仕事は朝早いし、帰ってくるのは、普通の人より早く帰ってくるので、アパートの住人と顔を合わせることはあまりない。
引っ越ししてきた時に、ラップを持って挨拶に回ったが、完全に居留守を使われた感じもあって、以来、1度も顔を合わせてない家庭もある。
この前、びっくりして起きたのは、この静かな朝に恐ろしく喚き散らす女の人の声だった。
どうやら子供のことを叱っているようだった。
朝、6時くらいだっただろうか。
安普請のアパートで、喚き散らす声は、団地中に響き渡ってるんじゃないかと、半分眠った状態で聞いていたが、喚き散らす声は相当長く続いて、尋常じゃなかった。
(大丈夫かな)と少し心配になった。
まだ小学校低学年の兄弟が学校から帰ってくる姿をアパートの階段下で見かけて、
「お帰り~」と声をかけたが、知らないおばさんと思ったのか、顔をチラっと見たまま返事をしなかった。
私も子供たちには、知らない人から声をかけられてもついて行ったらだめよ と言い聞かせていたが、ここはアパートの敷地内。
ニコって笑うくらいしてもいいんじゃないかと思ったが、2人の幼い兄弟の表情は暗かった。
喚き散らすお母さんの声は聞こえたが、お父さんらしい人の声は聞こえなかった。
ひょっとしたら2人の子供を連れて離婚したか、別居しているかのような訳ありのお母さんかも知れないと思った。
買い物をして帰った時に、車からでてきたお母さんらしき人と行きあったが、「こんにちは」の挨拶をしたら、「こんにちは」と返してくれたが、よそを見たまま、力なく、若そうな奥さんなのに、束ねた髪はボサボサで、頬はこけ、痩せ細っていて、生活に追われている感じだった。
半年間 1度も顔を見たことないお隣さんと、この暗い親子。毎日介護施設に送り迎えをしている無愛想なおばさん、そして近くに自宅があるのにアパート暮らしをしている私と息子。
人生、生きていればいろんなことがある。
みんないろんな理由があってこのアパートで暮らしているのだ。
みんな健康で、普通に暮らして行くことがどんなに難しいことかと、このアパートに住んでいるとじんわりと考えさせられる。