「あ、おはよう♪久しぶり」
同級生の由里は夏のBBQなど、何かの集まりの時には時々 顔を出すが、日曜礼拝は仕事の関係で、なかなか来ることができなかった。
「今日は来られたのね、良かったね」
礼拝が終わって会堂の隣にある部屋の一角で、テーブルを囲んでいつものコーヒータイムとなった。
(あれ?)朝、おはようと挨拶を交わした北川くんの姿が見えなかった。
「あれ?北川 帰ったん?」
気になっていたことを他の人が聞いてくれた。
「なんか迎えにきた車に乗って帰ったよ」
そう言ったのは久しぶりに礼拝に来た由里だった。
「今日、来るとき、ちょうどそこの交差点の信号待ちで一緒になったのよ。見たことない女の人とずっと親しそうに喋ってたから、後から 誰?って聞いたら、昔 付き合ってた彼女って言ってたよ」
「あいつ彼女おったん?」また他の人が聞いた。
「大学入るとき別れてきたけど、この前、大阪に帰った時また出会って、それからまた付き合いだしたんじゃない?高校生の時からの付き合いだってさ」
時々しか、教会に来ない由里には、微妙な女子達の雰囲気は伝わってなかったかも知れない。
聞かなくても良かった事実を知らされて、ゴーッという轟音と共に沖から津波に襲われたかのように、私の心は穏やかでなくなった。
あれから北川くんから電話が来なくなったのは、紛れもなくこれが理由。
2人で灯台までドライブして2人で見た碧い海。
2人だけの甘酸っぱい秘密が一転
秘密は私ひとりだけのものになり、理由なくうしろめたい気持ちがつきまとった。
北川くんが蝋燭に火を灯したのだ。
灯された蝋燭の火はその時から大きくなり、まるで涙のように蝋が溶けて流れた。
このまま火は燃え続けて短くなり、自然に消失するのを私は待つだけなのか・・・
北川くんの気持ちを確かめる・・・そんなことしなくてもいい。
確かめたいのは、今 自分がどうしたいか。
留学を目指してお金を貯めようとパワハラ セクハラ上司の下で、歯を食いしばり頑張っている最中、私の中で灯された癒しの灯火。
北川くんの存在はそんな感じだった。
北川くんが誰を好きでも構わない。
こっちから普通に電話でもかけてみればいい。
そんな気持ちでいた。