「あすみさん、これはどうしたの?」
社宅に引っ越しの日、お義母さんが手伝いに来てくれた。
そう言って指 差したのは、母の仕事の付き合いで買ったオーダー家具のタンスやチェストのこと。
「あ、これ、○○百貨店の6階の奥にオーダー家具のとこがあるじゃないですかぁ、そこで作ってもらったんです~」
私があまりに嬉しそうに話したので、たぶん義母はそれ以上は言えなくなってしまったんだと思います。
義母はタンスやチェストやドレッサーなど、しばらくの間、眺めていたような気がする。
それは、好意的なものではなかったのだということに、だいぶ後になって気がついた。
引っ越しは、社宅に住む夫の同僚の奥さんたちも手伝いにかけつけてくれた。
段ボールの箱から新聞紙にくるまれた食器が出てくるたびに、
「わああ~見て見て、これ、可愛い」
と、こだわりの食器が出てくる度に「きゃっきゃっ 」とはしゃいでいた。
「あすみさんて、お料理が好きなんですね!」
「この器揃えを見たらわかるよね~」
趣味の器は、いつも覗いていた高級和食器のお店で、いくつかは買ったが、ほとんどは母が仕事がお休みの日にお喋り目的で入り浸って、買って帰った食器が収めることができなくなり、私に回ってきた使いふるしの食器達。
それでも、もともとは高い器なので、目を引いたのだろう。
いろんな意味で私のことは社宅の人達の興味を引いた。
3棟ある社宅の中の独身寮に入っていた夫は、1番の古株だったようで、いつまでも結婚しないので、『小川さんが結婚するらしい』というニュースは社宅中を駆け巡ったようだ。
『一体どんな人がお嫁さんになるの?』
山の麓にある古びた社宅にやってきたのは、先輩に鍛えられて少しだけあか抜けたワンレン、肩パット入りのワンピースを着た女の人だったから、さぞかし驚いたことだろう。
夫には、化粧っ気のない素朴な女の人のイメージだったらしい。
過酷なOL生活からガラリと変わって、窓から見える風景はのどかな田園風景。
古びた社宅は、どこかの階の扉が開閉するたびに ゴーンと重い音が部屋の中まで響いてきた。
周りに何があるんだろう・・・少し歩いてみようかと思ったが、高いヒールの靴ばかりで、会社と家の往復、日曜日は礼拝で教会に行っていたので、普段着というものがなかった。
1番困ったのは食品の買い物だった。
不便な田舎で、運転免許のない私は動きが取れなかったが、歩くのは慣れている
思うようにならない未来予想図 - あすみとモラハラ夫との13000日
1番近いスーパーまで、歩いてみよう。
山の麓の道をずっと歩いてみた。
1番近いスーパーまでは歩いて25分、歩いてこれなくはなかったが、買い物の荷物を下げて帰るのは少し厳しかった。
少し慣れると、
「小川さん、買い物いくけど、一緒にいく?」と、社宅の奥さんが誘ってくれたりしたし、社宅には生協のトラックもやってきたので、毎日食べるものはそんなところを利用して、だんだんと生活に慣れていった。
そんなときに1階下に住む大原さんという奥さんと親しく喋るようになった。