この前から母が集めていた宝石の類いを、買取業者に頼んで査定してもらっている。
今一度 ここで明確にしておくと、買取査定は業者によってまちまちで、価格が数万円から変わってくる。
買取してもらうなら、できるだけ高い方がいい。そう思って買取業者 3社目に宅配で送った。
ネットから申し込みすると、箱が送られてくる。家にあるものでもいい。
あらかじめ時間指定しておくと、その時間に宅配業者が取りに来る。
後は査定額がメールに入ってくるのを待つだけ。
差し障るので、『どこの』業者かは伏せておくが、私が買取業者に感じたのは『不気味』さ。
この業者より前に査定してもらった2社とは少しずつ違っていた。
たとえば前2社(AとB)は、やり取りがメールなのに対し、すべてのやり取りがSNS。
送られてくるURLをクリックし、送られてくる認証番号を入れなければ、SNSのやり取りができない。
メールだとすぐに確認することができるのに、すぐに開けないところが手間取り、時間がかかる。
仕事中だと簡単に確認もできないから、夜になる。
査定額はA社よりもB社よりも1万円から3万円高かった。
すぐに買取のURLが送られてきたが、少し躊躇してしまった。
母の自慢の宝石類がいくらくらいするのか知りたいと思っただけ。
いざとなったら高く買い取ってくれるところに売却すればいいわけで、別に急いでいるわけでもなかった。
それに、「指輪なんかしないよ」と娘は言ったけど、「(娘に)あげてね」と言われたものを、私が勝手に売るのも気が引けてしまったのだ。
譲った相手の顔がわかるのならまだしも、
一括してURLで『売却』のクリックをしただけで、全てがなくなってしまうのが、どうもしっくりこなかった。
なので、買取業者にSNSで返事をした。
「どのくらいのものか査定をお願いしたもので、すぐに売却する意思はないので、すみませんが返却してください」
そうすると、どうだろう。
それから買取査定がSNSで返ってきて
買取査定額が¥70000もアップしたのだ。
意味がわからないと、動揺した。
私は返却を希望している旨を伝えているにも関わらず、『買取専門の部所に金額を上げてもらうようにしています』との解答。
そんなところに、叔母から思いがけず電話があった。
叔母は母のことをとても慕っていたのだった。
母も、早くに亡くなった弟の嫁のことはよくしてあげた。
ある日、叔母が母がはめていたオパールの指輪をしていたことがあった。
「それ、お母さんの?」
そう、叔母に聞いたのは、結婚して娘が生まれた頃だったように思う。
突然 母から電話がかかり、「こんにちは」や「元気?」などの挨拶もなく、いきなり用件から入るのが母の電話の特徴だった。
「指輪いる?」
そう、母から電話があったから、即座に「いらない」と答えた。
「あっそ」
そう言ってガチャと電話が切ったのだ。
いつもそう。
母は相手のことは考えず、自分の都合で電話をかけてくる。
内容も、(なんで今その話?)と思うような事が多かったから、余程のことがない限り、こちらから電話をすることはなかった。
目の前にいる叔母が薬指に母のお気に入りのオパールの指輪を何故はめているのか、聞いてみたのだった。
「ああ、これお母さんがくれはったんよ」
そう言ってオパールの指輪を眺めていた。
すると、母が即座に言った。
「あんた いらんって言ったじゃん」
確かに「いらない」と言った。
子育てで、いつが夜で、いつが昼かもわからないような毎日に、色石の指輪などはめて眺める暇などない。
そんなことは母親が1番わかっているはずだった。
だからと言って娘がいるのに、叔母に指輪をあげることなどないだろう。
でも、母のコレクションの中にトパーズやキャッツアイなどもあったのに、見当たらないところを見ると、自分を慕ってくれた叔母と姪っ子などに譲ったんだと思う。
査定した人が「昔のものですが、とても大切にされていたようで、とても綺麗なお品物です」と返信されてきた。
そんなところに思いがけない叔母からの電話に、売るんだったら叔母にあげて欲しいと、母が言っているような気がして、余計に、早く返却して欲しい気持ちになった。
「返却してください」
「せっかくですから、少しでもお力になりたく思います」
買取業者はそれが仕事だから、仕方ないが、ひとつでもふたつでも売却させようとする内容だった。
らちが開かないので、3つだけ売却をお願いした。A社B社よりも高い査定額がついて、はめているのをあまり見なかったサファイアリングと、ペンダントトップ、そして翡翠。
¥130000だった。
3点の買取のURLが送られてくるとばかり思ったが、送られてきたのはさらに買取額が上がった金額で、最初の査定額より10万円以上高いものだった。
こちらは3点と言っているのに『全て売却』のURLしか送られて来ず、ネットでこの会社の口コミを検索したら散々たるものだった。
宅配買取では、査定してすぐに石とリングをバラバラにしたのか、返品されてきた指輪から石がとれかかっていたという口コミもあって、ゾッとした。
いつまでも『売却』『売却』『売却』と言ってくる理由は、もう石がリングからはずされているんじゃないだろうか・・・ものすごい不信感を抱き、とうとう直接電話してしまった。
「返却をお願いしてるんですけど」
と言うと、たどたどしい日本語で対応した相手は日本人ではなさそうだったが、なんとか返却をしてくれそうな手配だった。
今日、その荷物が届き、石を外された形跡もなかったので、ホッとしたが、もう査定してもらうのは止めようと思った。
この前、「あなたのお母さんのだから」と裕福な友達が買ってくれたみたいに、顔のわかる、大切にしてくれそうな人に譲り渡したい気持ちになった。
宅配買取には、もう懲り懲りだ。