あすみとモラハラ夫との卒婚生活

モラハラ夫  卒婚生活 カサンドラ

教会で出会った彼 灯台編


北川君の車の助手席に乗せてもらって、海岸線をドライブすること一時間半。
遠くの岬に白い灯台が見えてきた。

「景色のいいところよ」

と、聞いてはいたけど、家族でお出かけすることがほとんどなかったので、地元にいながらにして訪れたのは、その日がはじめてだった。

車を降りると心地よい潮風が通り抜ける。

遠くから見た時はミニチュアのおもちゃのように見えていた灯台だったが、間近で見上げると圧巻の一言だ。


手すりのついている灯台までは波しぶきで濡れた岩場を下り、灯台に沿って設けられてある、ほとんど直角に近い高い石段を登っていく他、辿り着く方法がない。

「さあ、行こう」

北川くんは、前を歩きながら、足を滑らせそうになる私のことを時々「大丈夫?」と振り返りながら気遣ってくれた。
すぐに辿りつきそうに思ったのに、岩場をかなり歩いた。
「ああ、これはあすみちゃんには無理だ」

そう言って、ほとんど直角で足ががりの少ない石段を見て、北川くんは先に登って振り返り、私の方に手を差し出した。
「あ・・・」

迷いながら手を預けると、北川くんはぎゅっと握って勢いよく、引っ張りあげてくれた。

登りきった灯台の反対側に回ると

「わあ~綺麗~」2人は同時に口にした。

どこまでも続く青い空と深い碧い海。遠くに見える水平線が空と海を分けている。



今までになく強く打ち続けている心臓の鼓動は、足元の断崖絶壁に打ち寄せる波の音、立ち上る波しぶきのせいか、或いは ぎゅっと握られた彼の温かい手の感触を思い出したせいか・・・

波の音を聞きながら、余韻に浸っていた。

「なんか、お腹すいてきたね」

「サンドイッチ作ってきたのよ 食べる?」

「さすがあすみちゃん 嬉しいなあ」

周りにお店など何もなかった。
ちょっとお腹が空いた時に食べたらいいかなと作ってきたサンドイッチを、可愛い箱に入れて持ってきた。

芝生の場所に降りて2人で持ってきたコーヒーとサンドイッチを食べた。





ただそれだけ・・・。

たったそれだけだったけど、帰ってから夜遅くまでその日あったことを繰り返し思い出しながら、なかなか寝付けなかった。



教会の礼拝で北川くんと出会うと、ニコッと2人して目で合図した。
2人だけの秘密になってしまったあのデートを、誰にも話さず、大事にしようと北川くんからの次の電話を心待ちにしていた。


教会で会えば普通だったが、北川くんからはその日から電話がなかった。







 

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