バブルの時代だからもう30年以上も前になる。
出世しかない頭にないパワハラセクハラ上司に、毎晩歩いてかえれないくらい残業でこきつかわれて、家に帰ると実母のマネハラ。
パワハラモラハラセクハラを受けながらの過酷なOL生活 - あすみとモラハラ夫との卒婚生活
日曜日に教会に行って礼拝を守り、仲間に会うのが唯一の心の拠り所となっていた。
新しい牧師先生がやってきても、違和感なくみんな仲良しだった。
ある時、牧師先生を訪ねて男子大学生4人やってきた。
牧師先生が大阪の教会にいたときに知りあった2人に友達が2人ついてきた格好だ。
北川淳くんという彼だけ4年生。
昨年1年間アメリカ留学から帰ってきたばかりの同い年。
もう社会人として過酷な状況にいた私からすれば、『学生』という身分が羨ましくもあり、まためんどくさい部分もあった。
ともあれ、みんなそれぞれ、自分の道を目指して努力していくなか、ひさびさに毎週のように礼拝に現れた4人の大学生の存在は、マンネリ化しつつあった教会の日常のカンフル剤のような存在となった。
夏休みになれば、帰省してきたみんなで居酒屋に行き、お正月には牧師先生のお宅の2階でお節料理を囲んだ後、unoや大富豪などカードゲームなどして、みんなでおおいに盛り上がった。
みんなで車を連ねてスキーにも行ったし、ペンションを予約して牧場などにも遊びに行った。
そうやって遊びに行ったり、旅行したりしているうちに、同い年の北川君をなんとなく意識するようになった。
北川君はスラッと細身で背も高く、人懐っこく笑うのに、無駄にお喋りもしなかった。
(こんなかっこいい人には郷里の大阪にきっと彼女がいるんだろうなあ)
『結婚』なんか考えてはいない。相手は大学生。
しかも、勉強している生物学を究めるために、大学院まで進みたいと思っているという。
相手としてなんか現実的じゃない。
箸が転がってもおかしなくらい大笑いしていた女子高生の頃からしたら、もうみんないい大人。
しかも女子達は適齢期にもなっており、高校卒業してすぐにOLとして働きだした歩実は、相手さえいればもうすぐにでも結婚しても良いと考えていた。
北川君と話をしている歩実を見ていると、(きっと歩実も北川君のことを意識してるんだろうなあ)と感じた。
歩実ばかりじゃあない。大学卒業後、水泳のインストラクターとして働いていた一枝も、北川君とお喋りしている横顔がなんか嬉しそうだった。
若い仲間達が仲の良い和を保っているのに、誰かが誰かを好きになって、またそのために誰かを傷つけることになり、教会から去っていくことを牧師先生は、とても気にかけていたのを、みんな知っている。
たったひとしずく水滴が落ちただけで、表面張力によって張られていた水が滴り落ちるように、誰かがそれを口にすることにより、保たれていた均衡がいっきに崩れ落ちるような、そんな得体の知れない微妙な緊張感が漂っていた。
慶子がカリフォルニアへ留学した後だっただろうか
北川君から家に1本の電話がかかってきた。
「今度の休み、良かったらドライブに行かない?今、1番海が綺麗なんだ」
私は思いがけない北川君からの誘いに舞い上がった。